見直しの背景は「働くシニア」の急増
「定年後も元気なうちは働きたい」——そんなシニアが年々増えています。内閣府の調査では、60〜69歳の半数以上(52.5%)が「65歳を超えても働きたい(働いた)」と回答。その理由のトップは「生活の糧を得るため」で77.5%にのぼり、「生きがい」や「健康」を上回りました。老後が長くなる一方、物価高は止まらず、「働かざるを得ない」という実情がにじみます。
こうした流れを受け、2025年6月成立の年金制度改正法に盛り込まれたのが「在職老齢年金制度の見直し」です。
在職老齢年金(在老)とは、60歳以降も働きながら受け取る老齢厚生年金のこと。60代前半向けを「低在老」、65歳以上向けを「高在老」と呼びます。低在老は支給開始年齢の引き上げで対象者が減り、男性は2025年度・女性は2030年度にゼロに。そのため今回の焦点は、実質的に「高在老」でした。
支給停止の基準額が「月62万円」へ
年金を受け取りながら働く場合、賃金(賞与含む年収の12分の1)と老齢厚生年金の月額合計が「基準額」を超えると、超過分の半分が支給停止になります。
2025年度の基準(51万円)で、本来の老齢厚生年金が月10万円のケースを見てみましょう。月収を足した額が51万円以下なら全額受給。しかし合計61万円なら年金は半分の5万円に、合計71万円なら全額ストップとなっていました。
厚労省によれば、65歳以上の働く受給者308万人のうち、50万人が支給停止の対象(2022年度末時点)。「頑張って働くほど年金が減る」ことから、シニアの働き控えを招くとして長年議論されてきました。
今回の改正で、基準額は51万円から62万円に引き上げられます(2026年4月施行)。これにより、支給停止中の50万人のうち約20万人が全額受給可能になると見込まれ、働く意欲のある高所得シニアには朗報といえます。なお基準額は現役男性の平均月収に応じて毎年度見直されるため、「62万円」も今後変動する点は覚えておきましょう。
誤解が多い在職老齢年金、まず「自分のケース」を
この制度は誤解が非常に多い分野です。よくある勘違いを整理します。
- 基礎年金も減る? → 減りません。停止対象は老齢厚生年金のみ(ただし厚生年金が全額停止だと加給年金も停止)
- 辞めたら停止分はもらえる? → 後から支給されることはありません
- 70歳で加入資格を失えば停止も解ける? → 同程度の働き方を続ける場合は引き続き対象です
- 遺族厚生年金なら停止されない? → 自身の老齢厚生年金が基準を超えれば対象になります
大切なのは「自分の場合どうなるか」を把握すること。60代以降の働き方を考える際は、まず年金事務所で年金見込額の回答表をもらうのが第一歩。これがあれば、勤務先の人事とも今後の働き方や給与をスムーズに相談できます。
改正は「点」ではなく「面」で理解を
関連して押さえたいのが、高年齢雇用継続給付の引き下げ。60歳時点より賃金が75%未満に下がった人への給付率が、2025年4月から15%→10%に縮小されました。これに伴う年金の支給停止額も、標準報酬月額の最高6%→4%に引き下げられています。
2025年4月からは65歳までの雇用が完全義務化されるなど、シニアの就労を後押しする改正が続きます。ただ企業側の受け入れには温度差もあり、今後の対応が課題です。法改正は単独の「点」で見るのではなく、関連制度も含めた「面」でとらえることが、正しい理解への近道です。

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