定年後に手取りが激減する理由|収入ダウンの崖と住民税の落とし穴 ♯250

定年後に襲ってくる「収入の崖」と、見落としがちな住民税の話

私の父が60歳で定年を迎え、再雇用で働き始めたとき、最初の給与明細を見て絶句していたのを今でも覚えています。「これ、何かの間違いじゃないか?」と。現役時代の半分以下になった手取り額。その大きな原因のひとつが、実は「住民税」だったのです。

定年後の家計には、いくつもの「収入が一気に下がる段差」が待ち構えています。私はこれを聞いたとき、まるで階段を踏み外すような怖さを感じました。今回は、その仕組みと備え方を整理してみます。

定年後に訪れる「4つの段差」

収入が大きく落ち込むタイミングは、一度きりではありません。ざっと挙げると次の4回です。

  • 1回目:再雇用のスタート時 — 大企業勤めでも、再雇用後の年収は300〜400万円台に落ち着く方が多いようです。
  • 2回目:年金生活への移行時 — 65歳で完全リタイアすると、給与より少ない年金だけの暮らしへ。
  • 3回目:企業年金・個人年金の終了時 — 終身ではなく、70歳や75歳で打ち切られるケースが大半です。
  • 4回目:配偶者との死別時 — 年金が1人分になり、遺族年金があっても2人分より少なくなります。

段差は時を経て、繰り返しやってくる。これを知っておくだけでも、心構えがまるで違ってきます。

定年直後を苦しめる「住民税のタイムラグ」

段差をさらに険しくするのが住民税の仕組みです。ここがとても重要なポイントなのですが、住民税は「前年の所得」をもとに翌年支払うという性質を持っています。

つまり、再雇用で収入がガクッと下がっても、税額は現役時代の高かった収入を基準に決まるのです。父の場合も、年収が半分以下になったその年に、現役時代と変わらない住民税を払い続ける羽目になりました。

たとえば、現役時代に額面月収50万円だった人の手取りは約37万円ほど。それが再雇用で額面月収25万円になると、手取りは約17万円と半分以下にまで沈みます。額面が減ったうえに重い住民税が乗ってくるため、明細を見て愕然とするのも無理はありません。

この重い負担は退職翌年の5月まで続きます。翌々年の6月からは、下がった収入に見合った税額に切り替わり、手取りもいくらか持ち直します。先ほどの例なら、月17万円が20万円前後まで回復するイメージです。

カギを握るのは「60歳での支出の見直し」

収入が減るのに現役時代の生活水準を続けていたら、家計は確実に赤字に転落します。仮に毎月5万円、ボーナス時に20万円の赤字が出れば、年間100万円、5年で500万円もの取り崩しに。せっかくの退職金や老後資金が、見る間に溶けていきます。

そこで大切なのが、再雇用で働いている60代前半のうちに「収入の範囲で暮らす習慣」を身につけること。我が家でも父の定年をきっかけに、家計を一年単位で洗い出しました。やってみると、見直せる固定費が意外なほど見つかったのです。

  • 使っていない保障が多かった生命保険の整理
  • 大手キャリアから格安SIMへの乗り換え
  • 食費・日用品の月予算を決めてやりくり

父は「ランチの外食をやめて弁当持参にする」と宣言し、母は「パートを少し増やす」と動き出しました。ポイントは、支出を「見える化」して家族で共有すること。一人で抱え込まないことが、長続きの秘訣だと実感しました。

年金生活を見据えて、今できる備えを

年金だけでの生活は、多くの場合やりくりが厳しくなります。毎月の不足額を把握し、退職金や老後資金で95歳頃まで賄えるかを試算しておきましょう。年60万円の不足なら、30年で1,800万円。これに自宅の修繕費なども加わります。

足りないと感じたら、短時間でも70歳まで働く、住宅ローンは年金生活に入る前に完済しておく、といった対策が有効です。

こうした老後のお金の流れを自分で把握するのは、正直ハードルが高いものです。私自身、最初にライフプラン表を作れる家計シミュレーションのツールや書籍を活用したことで、漠然とした不安が「いつ・いくら足りないか」という具体的な数字に変わり、ずいぶん気持ちが楽になりました。同じように将来が不安な方は、まず一度プロ監修のマネー本やシミュレーターで自分の家計を可視化してみることを、心からおすすめします。

段差がいつ、どのくらいの高さで訪れるのか。それを早めに知り、60歳という節目で家計を整えておくこと。それこそが、何度も訪れる「収入ダウンの崖」を穏やかに越えていく、いちばん確かな備えだと思います。

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